ホテル運営のよくある課題と解決事例

コロナ禍となって久しい中、いまだに海外インバンドは復活しておらず、宿泊業界全体としては苦戦を強いられている状況です。山積する課題に対して、いま、ホテル事業者ができることは何なのか?そもそも、どんな課題があり、なぜその解決が急務であるのか、事例を交えながらご紹介します。

 

1.インバウンド需要の減少、働き方改革、山積するホテル運営の課題とは?

2020年、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、世界はこれまでに経験したことがないような危機に直面しました。日本の宿泊業界においては、海外インバウンドがほぼゼロの状態となり、国内のビジネス出張は激減。ステイホームにより、旅行、観光などのレジャーによる需要も大幅に減少しました。これに伴い、人々の考え方やライフスタイルも大いに変わりました。ビジネスはテレワークやオンライン会議が急速に普及。手順の説明、報告、確認、認識合わせなどの用途においては、必ずしも対面ではなく、オンライン会議やチャットで十分にこと足りることに気づかされたビジネスマンも多いのではないでしょうか。

日常生活においては、例えば消費活動に大きな変化がありました。「日経クロストレンド」が作成した「トレンドマップ 2022上半期」では、「キャッシュレス決済(QRコード決済など)」が消費トレンドの第2位にランクインしており、非対面やセルフという考え方が今後ますます定着していくことが予想されます。

コロナ禍で生じた人々の新しい考え方やそれに対応する社会の仕組みは、コロナ禍という単なる一過性のものではなく、ニューノーマルとして社会に根付くものも多いでしょう。宿泊業界においては、宿泊需要の回復を待つのではなく、社会やお客様の価値観の変化を見据えた新しい挑戦や改革が、いままさに必要なのです。

 

1-1.深刻化する人手不足

コロナ禍以降、人手不足の状況はこれまでと真逆の業種が多々あります。旅館やホテルも例外ではなく、まさに買い手市場となり、従業員が過剰となっている業種の1つです。ただ、この傾向は、インバウンドの復活や観光の再開により、再び人手不足の状況に陥ることが容易に予想されます。2022年は3年ぶりに行動制限のないゴールデンウィークとなり、多くの観光地が賑わいを見せました。再び、コロナ前の賑わいが日常的に戻った時に、慌てて雇用を確保していては、対応が間に合わないかもしれません。ましてや、コロナ禍でリストラ、雇止め、解雇などが大量に発生した業界に対して、先行き不透明感や不安を感じている人も少なくないはずです。ポストコロナを見据えて、いまこそ、長時間労働や夜勤、中抜けシフトなどの宿泊業が人手不足となる原因を抜本的に改善していくべきでしょう。

 

1-2.抜本的な収益性の改善

コロナ禍により、旅館・ホテルの多くは売上が減少しました。そして、そもそもの需要が完全に回復しない限り、安易に売上の改善は期待できません。そうした変えようのない外部環境の中、収益を改善するには、経費にメスを入れるほかありません。その中でも、抜本的に収益構造を改善し、健全化するには、固定費を見直すのが定石です。万が一、戻りかけた宿泊需要が再び縮小した場合も、耐えられる経営基盤を作るために、まずは、売上高に対する比率の高い人件費を見直しましょう。その際は、雇用が安定するように、働き方や従業員のオペレーションも含めた改革が不可欠です。

 

1-3.非対面・非接触時代への対応

コロナ禍において、「非対面・非接触」は様々な業界、業種においてニューノーマルとなりました。最近でも、空港ラウンジの食事提供を非対面・非接触化したり、完全非接触で見学から契約までが行えるトランクルームが登場しています。宿泊業においてもチェックイン・チェックアウト、商品やサービスの注文、宿泊代金や購入時の会計など、様々なシーンで非接触・非対面へのシフトが進みました。非対面・非接触は、スタッフとお客様の接触機会を減らす感染症対策としてはもとより、業務効率化や人手不足解消の効果も期待されます。サービスを受けるユーザーにとっても、対面でのやり取りの手間が省かれ、利便性の向上につながります。様々なメリットがあるサービスの非対面・非接触化は、新型コロナの収束に関わらず人々に求められる仕組みでしょう。

 

2.ホテル運営の課題を解決するIT活用のススメとは?

人手不足、収益性の改善、非対面・非接触への対応など、ホテル運営にはさまざまな課題が存在しますが、その課題を包括して解決する方法としてITの活用があります。例えば、ホテルのフロント業務には、宿泊予約の受付対応、予約者管理、部屋割りなどの接遇といった業務があげられます。これらには当然のようにITツールが活用されており、予約サイトやサイトコントローラー、PMS(プロパティマネジメントシステム)はホテル運営において今や必要不可欠なツールと言えます。2000年ごろに普及した予約サイトが登場するまでは、ホテルの予約は電話で受け付け、電話を受けた担当者が予約名簿に入力、管理するのが一般的でした。このように、事務処理を自動化し、業務の生産性を高めることにITツールは大きく貢献しているのです。

 

2-1.セルフチェックインとスマートロックの活用への期待

この数年はチェックイン・チェックアウトの処理や精算を、自動チェックイン機でセルフ化する動きも急速に広がっています。特に、キャッシュレス決済や事前決済の普及が加速したコロナ禍以降は、宿泊者情報の取得、本人確認、鍵の受け渡しが可能なタブレット端末型のセルフチェックイン機や、ゲストのスマートフォンでチェックインが可能なソリューションも生まれています。以前と比べて低コストでチェックイン機の導入が可能となったほか、IT導入補助金などの補助金を活用することで導入のハードルをぐっと抑えられる場合もあることで、ますます注目が高まっています。

 

2-2.セルフチェックインとスマートロックの導入メリット

セルフチェックインとスマートロックを導入することで、ゲストはフロントに設置されたタブレット端末や、ゲスト自身のスマートフォンを活用したオンラインチェックインが可能になります。端末上でのチェックインが完了すると、客室番号とともに客室の鍵(暗証番号やQRコード)が出力されます。これにより、フロントスタッフはカウンター越しでの対面でのチェックイン、チェックアウト業務を大幅に削減でき、ホテルの形態によっては無人化なども可能になります。削減できた人的リソースは、例えばロビーでのおもてなし業務に充てることや、そもそもの人手不足や長時間労働の解消も期待できます。さらに、ゲストにとってはフロントの行列待ちが不要になりスムーズなチェックインが可能となるというメリットもあります。

 

事例①:おもてなしへの注力で口コミ高評価を獲得している『なんば戎ホテル』

大阪の繁華街ミナミから1駅にあるなんば戎ホテルは客室数63室の都市型ホテルです。セルフチェックインとスマートロック「RemoteLOCK」の採用で、昼間はフロント1名体制、夜は無人運営を実現しています。非対面チェックインにより、通常フロントと比べ、宿泊案内にかかる時間は50%以上も削減できており、その分お客様とのコミュニケーションやマーケティング施策に使うなど有効的な活用をされています。

 

事例②:地方の人手不足を無人運営で解決している『SEN.RETREAT TAKAHARA』

SEN.RETREAT TAKAHARAは、人気観光地ながら高齢化に伴う宿泊施設不足の問題を抱える熊野古道において、無人運営の仕組みにより解決を図っている宿泊施設です。無人の場合はトレーサビリティの確保が大事だと考え、クラウド上で入室や鍵の状況を確認できるスマートロック「RemoteLOCK」を導入。ITツールを活用した運営により、熊野古道の観光産業そして熊野古道そのものを維持していくことにも貢献する地方創生の役割を果たしていることも特徴です。

 

まとめ

ホテル運営によくある人手不足、収益性の改善、非対面・非接触への対応などの課題は、ITツールの活用で解決できます。中でもセルフチェックインやスマートロックの活用により、フロント業務を大幅に削減したり、場合によってはフロントの無人化も可能となります。省人化や無人化により、フロントスタッフの雇用の課題を解決したり、少ないスタッフが長時間労働を強いられるという職場環境の改善も期待できます。目先の人件費の削減はもとより、本質的な収益構造の改善、人手不足対策としても期待されるIT活用を、この機会にぜひ、検討してみてはいかがでしょうか。

※「QRコード」は株式会社デンソーウェーブ様の登録商標です。

本記事は株式会社構造計画研究所様からの寄稿物です。