宿泊施設では、ゲストがチェックインを行う際に宿泊者カードに氏名や住所、電話番号や職業等を記載してもらうことが義務付けられていますが、フロントでお客様に全て記載してもらっていることはありませんか?
必要事項の全てをお客様にフロントで記載してもらっていると、チェックイン時に待ち行列が発生して他のお客様を待たせることにつながる可能性があります。また、お客様から頂いた情報を台帳で管理することに困っている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、宿泊者の名簿管理の効率的な管理の方法についてご紹介します。
宿泊者名簿とは?
宿泊施設が宿泊者名簿で宿泊者の氏名、住所、職業その他の事項を管理する必要があるのは、その宿泊施設で感染症が発生した場合の感染経路の調査のためであったり、テロ防止のために外国人宿泊者の身元を後日確認するためであったりします。
これらは、ホテルや旅館の場合は旅館業法(昭和23年法律第138号)第6条に、民泊施設の場合は、住宅宿泊事業法(平成29年法律第65号)第8条等によって定められています。
このように宿泊者の衛生や安全の確保、テロ等の不正行為を未然に防止するために宿泊者名簿が存在しているのです。この宿泊者名簿は、宿泊者自身が記入する必要はなく、フロントスタッフが宿泊者に確認して記入することが可能です。この際、宿泊者はフロントスタッフからの質問を受けた場合には必要事項に回答する必要があります。
記載に必要な情報
宿泊者名簿に必要な記載情報は、旅館業法や住宅宿泊事業法の法律によって求められる事項に加え、各自治体の条例によって求められる事項があります。
まず法律によって求められる事項としては、全ての宿泊者に対するものと、日本国内に住所を持たない外国人に追加で求められる事項があります。全ての宿泊者に対しては、宿泊者の氏名、住所、職業の3つです。外国人の観光客である場合には、更に国籍と旅券番号が必要となります。
旅館業法第6条 施行規則第4条の2
法第六条第一項の宿泊者名簿(以下「宿泊者名簿」という。)は、当該宿泊者名簿の正確な記載を確保するための措置を講じた上で作成し、その作成の日から三年間保存するものとする。
2 略 3 法第六条第一項の厚生労働省令で定める事項は、宿泊者の氏名、住所及び職業のほか、次に掲げる事項とする。 一 宿泊者が日本国内に住所を有しない外国人であるときは、その国籍及び旅券番号 二 その他都道府県知事が必要と認める事項
条例で追加で求められるものには、宿泊者の氏名、住所、職業の他、性別や年齢、前泊地や行先地、
到着年月日や出発年月日などがあります。京都府の条例を例に見てみます。
京都府旅館業の適切な実施の確保等に関する条例施行規則
第6条 法第6条第1項に規定する宿泊者名簿に記載すべき事項は、同項及び省令第4条の2第3項第1号に規定する事項のほか、到着年月日、出発年月日、年齢、前宿泊地及び行先地とする。
新型コロナウイルス感染症による影響で最近は広く周知されてきていますが、宿泊者名簿の存在理由は感染症が発生した際の感染経路の特定にもありますので、記載項目として到着や宿泊の日時、前泊地や行先を求めることは今ならでは必要項目と言えるでしょう。
宿泊者名簿の記載には注意しなければならないことがあります。宿泊客が団体の場合、代表者の情報の未記載で良いのかどうかということです。法律的に宿泊者名簿は団体全員の情報の記載が必要となります。旅館の中には代表者のみの情報で良しとしているところもありますが、上記の法律や条例の存在目的を考えると代表者のみの情報で済ますのではなく、宿泊者全員の情報を記載するようにしましょう。
長期に滞在する宿泊者に対しても注意が必要です。理由は、そのまま所在が分からなくなり不法滞在者になる可能性や違法行為を行う可能性が短期滞在者に比べて高いからです。7日以上の宿泊予約がある場合や清掃などのタイミングで定期的に宿泊客と顔を合わせたりして確認を行うようにすると良いでしょう。
宿泊者名簿の管理は大変
宿泊者名簿の記載の重要性についてご理解いただけたでしょうか。宿泊事業者がこの名簿の記録と保管していくのにはそれなりの手間がかかります。名簿を手書きやエクセルなどで管理する事業者は、自身の施設に合わせた項目を取得できるフォーマットを用意したり、なくさないように保管したりする必要があります。
厚生労働省の定めた「旅館業における衛生等管理要領」では、宿泊者名簿は3年以上保管することが求められています。また、電子データで保管する場合はいつでも紙で出力できるようにしておく必要があります。
宿泊者名簿を紙で管理すると保管スペースの確保やファイリングといった手間がかかります。また、水害や火災、盗難などの被害に遭った際に、紙自体を消失・破損する可能性があるため、物理的に保護しなければなりません。また、過去の宿泊者情報を調べたいときに、場合によって何百ページにも及ぶ宿泊者名簿から該当ページを探す必要があります。宿泊者名簿の量が増えれば増えるほど、管理に時間がかかるでしょう。
効率化するには
保管スペースや消失・破損のリスクに備えるためには宿泊者名簿を電子化することが役立ちます。
紙やファイル、記入や管理に発生する時間やコストを削減することにつながるからです。この際、チェックインの業務そのものを見直し、人手を介さない方法での管理が便利です。
入力ミスなどのヒューマンエラーを排除し、宿泊者名簿の正確な記載を担保できます。また、チェックインサービスと合わせて考えると、フロント業務の省人化や人手不足の解消にもつながります。
宿泊者が多くなるハイシーズンには、チェックインの待ち時間のためにフロントで待ち行列が発生してしまうことにもつながります。新型コロナウイルス感染症をはじめとする感染症対策にはこういった密の発生を避け、宿泊に必要な情報を速やかに取得できることは事業者にとっても宿泊客にとってもメリットとなるでしょう。
また、外国人観光客への対応にも効果を発揮します。外国人観光客への対応には、英語や中国語などの外国語に堪能な人材のスタッフとして配置する必要となるかもしれません。語学力のあるスタッフの雇用は簡単ではありませんし、コストもかかります。外国人観光客とのコミュニケーションがスムーズに対応できないと、それこそチェックイン手続きに大幅な時間がかかることにもつながります。ほとんどの宿泊者名簿と連動するチェックインサービスの多くは英語や中国語などの多言語表記に対応しています。こうした仕組みを活用してフロント業務の効率化を図りましょう。
『業務効率化』についてはこちらの記事をご一緒にお読みくださいませ。
まとめ
宿泊者名簿は、宿泊施設の運営事業者がお客様の衛生や安全の確保のために正確な記載と管理が法律によって義務付けられています。名簿の記入にあたっては、お客様から正確な情報を取得するためにフロントでの確認作業が発生します。
フロントでの確認作業の方法によっては、他のお客様を待たせてしまったり、密の発生による感染症リスクが高まったりする可能性があります。こうしたリスクの排除と業務効率化の観点で、宿泊者名簿の電子化やそれにつながるチェックインサービスの導入などが有効となるでしょう。