ホテルは偽名でも泊まれる? 偽名がばれたときの罰則は?

ホテルに泊まるとき、ほとんどの方は宿泊者名簿に自分の名前と住所や電話番号を書き入れることになります。しかし、時として人生で1度や2度は「大人の事情」というもので、ホテル側に自分の名前や連絡先を知らせたくない状況に陥る可能性が、ないわけではありません。

そんな差し迫った状況で、もしもホテルの宿泊者名簿に「偽名」や「偽の連絡先」などを書いた場合には、何か問題になるのでしょうか。

 

私文書偽造ではないが…

文書に偽名や偽の情報を記載した場合、まず問われる可能性がある罪として、多くの人が最初に頭に思い浮かべるのが「私文書偽造」というものではないでしょうか。

「私文書偽造」は刑法159条1項で「行使の目的で、他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造し、又は偽造した他人の印章若しくは署名を使用して権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画を偽造した者は、三月以上五年以下の懲役に処する。」と規定されています。

ここで問題になるのが、具体的にどのような文書や図面が「権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画」にあたるのか、ということでしょう。

一般的には預金通帳や契約書、請求書や履歴書・卒業(修了)証明書・就労証明書などが、こうした権利、義務若しくは事実証明に関する文書若しくは図画」にあたると考えられます。

一方、ホテルなどで記入する宿泊者名簿は、上記のように民間人の権利義務の発生を意味し、それを証明するためのものではありません。そこから、宿泊者名簿に偽名を書いたとしても、それが「私文書偽造」に相当することはないと考えられます。

では、宿泊者名簿に偽名を書いても、まったく罪には問われないのでしょうか。いいえ、別の法律のもとでは、この行為は立派な犯罪行為として、罪に問われてしまうのです。

 

旅館業法第6条がカギ

旅館業法6条1項では「営業者は、厚生労働省令で定めるところにより旅館業の施設その他の厚生労働省令で定める場所に宿泊者名簿を備え、これに宿泊者の氏名、住所、職業その他の厚生労働省令で定める事項を記載し、都道府県知事の要求があつたときは、これを提出しなければならない。」と規定されています。

つまりこの旅館業法により、宿泊者はホテルにある宿泊者名簿に自分の本当の名前や住所などを記載する必要があるということになります。

また、この法律に違反した場合に罰則規定は、拘留(1日以上30日未満)と軽犯罪法とほぼ同程度の刑罰に処せられることになります。

軽犯罪法とほぼ同様の罰則規定なので、決して重い罪というわけではありませんが、仮にこれらの罪で処罰された場合は検察庁の犯罪記録に「前科」として残ることになります。

元々、この旅館業法6条1項は、例えば①伝染病や食中毒などが発生したときに追跡調査をする必要があるため、②ホテルが火事や地震などの災害に会った時の身元確認のため、そして③テロリズム対策のため、といった理由で規定されたものでした。

最近でも新型コロナウイルスの蔓延は記憶に新しいところですし、地震や火事などの災害の可能性は、常に付きまといます。またテロについても同様のことが言えるでしょう。このように考えると、万が一のときのため、ホテルでは偽名を使わずに、やはり本名で宿泊者名簿に記入しておきたいところです。

ちなみに、ホテル側が宿泊者名簿を保管するのは約2年間と決められています。

 

偽名は書かない方が安全

このように見てみると、やはりの宿泊者名簿に偽名で記録を残すことはおすすめできません。法律に反するリスクはもちろん、万が一災害に巻き込まれた時などに、安否確認がスムーズにできなくる可能性もあります。

ホテルマン・ホテルウーマンは常日頃から、宿泊者の動きや表情を本当によく観察しています。ホテルで後ろめたいことをするのは、避けた方がよさそうですね。