2007年、日本の観光政策はそれまでの政策から新しく改訂され「観光立国推進基本法」が施行されました。2008年10月には観光庁が発足され、21世紀は観光の世紀といわれるようになりました。
政策の主要分野として「ヘルスツーリズム」に大きな期待寄せられるようになりました。旅を楽しみながら、健康になる新しいスタイルとして実は古くから存在はしていましたが、近年では市場規模の目標が年々大きくなっています。
なぜここまで普及したのか?事例を用いて、この記事ではヘルスツーリズムをご紹介します。
ヘルスツーリズムとは
旅行という日常とは違う楽しみの中で、医学的な根拠に基づく健康の回復や健康増進を図る観光のことをいいます。健康に対して無関心だった状態から、ヘルスツーリズムをきっかけに関心を持つようになる方もいらっしゃるようです。
国内で提供されているヘルスツーリズムプログラムにおいては、その多くが「運動」「温泉」「食」のプログラムとなっており、運動の中でもウォーキング、ハイキング、トレッキング、ヨガ、水中運動等。食はヘルシーメニュー、薬膳、地元料理など。他にも健康診断、森林浴、アニマルセラピー、お笑いといった内容があるようです。
出典:ヘルスツーリズム研究所「ヘルスツーリズムの現状と展望」
地域の特性を活用したプランを提供しやすいので、全国に広がっています。温泉療法や森林療法、海洋療法(タラソテラピー)のほか、主に医療行為を受けるための手段として行われるメディカルツーリズムなども広義の意味でヘルスツーリズムに含まれる。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
また、経済産業省が2016年度からヘルスツーリズムの品質認証制度をスタートさせました。「ヘルスツーリズム認証」という認定制度です。
ヘルスツーリズム認証はNPO法人日本ヘルスツーリズム振興機構(ヘルスツーリズムに関わる研究・開発・啓蒙活動・人材育成等を行う団体)、日本規格協会ソリューションズ株式会社(JIS・ISO規格等の開発・普及を行う日本規格協会グループにおいて、各種認証事業を提供する法人)、一般社団法人日本スポーツツーリズム増進機構(スポーツツーリズムに関わる観光まちづくりや旅行商品化等を行う団体)の3団体が運営しています。
「人生100年時代」といわれ国民の健康への関心が高まる中、国も健康寿命を延ばすための事業を推進しています。様々なヘルスサービスを提供していますが、消費者側にとっては安心・安全に利用できることができるのか疑問に思うかもしれません。
そこで観光商品を客観的に評価し、利用者が安心してサービスを受けられることを目指しており、品質が保証されたヘルスツーリズムの体験が可能です。ホームページやパンフレットに認証を受けたことを記載できるため、旅行者はプログラムの品質を一目で判断できるようになります。
認証マークによる品質保証は、事業者にとって、その地域におけるブランド価値の創造につながり、国内旅行者だけでなく外国人旅行者や企業の社員旅行向けに品質を保障したヘルスツーリズムをPRできます。
認証制度のポイント
評価は3段階で、基準のポイントは大きく3つに分けられ、
- サービスを提供する体制が整っているか(安全性)
- 参加者に健康への気づきを与えているか(有効性)
- 地域特有のプログラムを組み込んでいるか(価値創造性)
という観点から審査します。また、インバウンド対応も評価基準に加わる見込みです。
「ヘルスツーリズムプログラム」を認証するマーク
健康をイメージしたハートの中に、旅行カバンを持った人物が歩くことで、ヘルスツーリズムプログラムを表現。
ヘルスツーリズムの要件を満たした観光商品を広く社会に「見える化」することで、健全な市場形成の基盤が普及していくように、旅をきっかけとして多くの人の健康につながるように、という願いが込められているようです。
ヘルスツーリズムのメリット
ヘルスツーリズムのメリットはなんと言っても、旅行気分で健康になれるようなプログラムが組み込まれていることです。
楽しみながら、健康を促進するようなプログラムが多いので、思い出にもなりやすいです。また、旅行の際に不健康になりがちな食事も、ヘルスツーリズムであれば、健康的なものを食べることができます。
現在では、ヘルスツーリズムをすると、自分の活力が沸いたり、怒りや疲労感を軽減させることができると言われています。そのため、自己効力感が高まったりします。自分が楽しみながら、ヘルスツーリズムに参加することが一番ですね。
ヘルスツーリズムの歴史
西洋での歴史は巡礼の旅に起源を有するとされています。西洋では古代ローマの戦士が温泉療法を行ったスパや中世貴族の保養地などからヘルスツーリズムが発展したようです。
日本では温泉湯治との関わりが深く、江戸中期に一般庶民に普及しました。昨今日本でヘルスツーリズムとしての取り組みが本格的に始まったのは、2007年の「観光立国推進基本法」の施行されたことにより、同法で「観光は健康の増進に寄与する」点について言及され、さらに、ニューツーリズム、着地型観光の一つとして認知され、現在に至ります。(参考文献:前田勇「現代観光総論」学文社)
ヘルスツーリズムの事例
「旅to健康」
JTBからヘルスツーリズム認定取得プログラムをベースにラインアップしたツアーが紹介されています。
ご自身に最適なツアーを検索して、ネットで予約が可能です。運動不足、食生活乱れ、ストレスの大きく3つ、改善することを目的としたサービスを提供しています。
Facebookでのオンラインツアー
(株式会社竹屋旅館 スマートヘルスツーリズム部は、2021年3月、静岡・清水スマートウェルネスツーリズムのオンラインツアーを催行。)【オンラインツアー】沢山の方のご参加ありがとうございました!
新型コロナウイルスの影響により、開催が難しい時期にオンラインでツアーを開催しているところもあるようです。
ツアーの内容
- 清水港水上バス | 富士山清水港クルーズ
- 世界遺産 三保の松原サイクリング
- みほしるべ、神の道ウォーキング体験、静岡
- 茶の間ヨガ
- 健康食体験
北海道 ルスツリゾート
北海道のルスツリゾートでは、科学的な根拠に基づいた独自のヘルスツーリズムがあります。
北海道のルスツリゾートは道内最大級のリゾート施設で、スキー場やゴルフ場、プールや遊園地などが備えられており、充実したラインナップになっています。
ヘルスリゾートである健康促進プログラムには、血糖値によって食事と運動のバランスを調整して、無理をせずに体重を減らしていく「血糖コントロール理論」を取り入れており、道内の新鮮な食材を使って、パーフェクトに近い栄養価の食事を出しています。その一方で、スキーやゴルフ、乗馬などによって運動をして、健康へ近づくお手伝いもしています。
山梨県北杜市 増富温泉
山梨県北杜市の増富温泉は瑞牆山と金峰山のふもとの本谷川沿いにあります。
この温泉は戦国時代に発見され、秘蔵の湯として傷を負った兵士たちを療養させていました。大正の初め頃にはラジウムの効能が宣伝されて、湯治の客に親しまれてきました。
今は、人間本来が持っている治癒力を高めるための癒しの場所として取り組みを進めています。ここでは、人間の体本来が持っている浄化作用を促す樹林気功体験や公園での潜在意識の活性化体験、本谷川渓谷でのパワースポット体験、温泉療法体験、薬膳カレーによる自然エネルギー体験が提供されています。
和歌山県の熊野古道
熊野古道は、ご存知の方も多いと思われますが、和歌山県の3つの大社と周辺の街をつなぐ旧道です。
熊野古道では、近隣の医科大学とともに、体と心に影響を与えることがわかっている「五感を刺激しながらウォーキングをする」ことを実践しています。ウォーキングでは、熊野古道を知り尽くしたインストラクターが一緒についてきてくれることが特徴です。そして、「健康案内人」という方が、参加者のペース配分や水分の補給を促すサポートをしてくれます。
この企画には、お弁当を食べたり、温泉に入ったり、健康のチェックも含まれており、大変人気のヘルスツーリズムになっています。
千葉県南房総市 癒やしの森のセラピーウォーキング
千葉県の南房総市では癒やしの森のセラピーウォーキングが行われています。
特徴としては、森林セラピー基地に認定されている大房岬自然公園で、森と海を活用するドイツ式の療法を使ったプログラムです。具体的には砂浜でのウォーキングや座観、森林セラピーや香り体験などがあり、途中でハンモックで休憩が取れます。
健康テーマは生活習慣病の改善や運動不足の改善、心の健康の回復です。
山形県上山市 上山型温泉クアオルト事業
山形県上山市では「上山型温泉クアオルト事業」というものがあります。
「クアオルト」という言葉は、ドイツ語で「高品質な長期滞在型の健康保養地や療養地」を意味します。
この「上山型温泉クアオルト事業」では、体を冷やしながらウォーキングをすることによって、健康を促すものになっており、普段のウォーキングよりも効果を得やすいです。
三重県 大淀海岸タラソテラピーウォーク
三重県では「大淀海岸タラソテラピーウォーク」というものが行われています。
「タラソテラピー」とは海洋療法のことを指し、さまざまな栄養素を持つ海の力を借りて、体調を整える療法です。タラソテラピーとウォーキングを同時にすることによって、生活習慣病の予防や心身の調子を整える効果がもたらされる期待があります。
「大淀海岸タラソテラピーウォーク」では、実際にやってみて、フィードバックももらえるので、その場に限らず、自分の日常生活で取り組むことが可能です。
群馬県 みなかみヘルスツーリズム
群馬県では「みなかみヘルスツーリズム」という取り組みが行われています。
「みなかみヘルスツーリズム」は都市生活者向けのプログラムになっており、季節に応じたさまざまなアクティビティがあり、春と秋は比較的涼しいのでウォーキング、夏はラフティング、冬はスノーシューということが行われています。
この「みなかみヘルスツーリズム」も、上記した「大淀海岸タラソテラピーウォーク」と同様にフィードバックがあり、そのフィードバックを経て、自分の日常生活に取り組むことができ、継続的な運動をしていく上でのサポートとなっています。やはり、日常生活で継続的に運動をしないと、せっかくヘルスツーリズムに参加しても、意味がないです。
ヘルスツーリズムに参加したのであれば、自分の生活の中で運動する時間を作りましょう。
ヘルスツーリズムのこれから
新型コロナウイルスによって観光業界は従来の観光が厳しく制限され、大きく影響がでました。しかし、経済産業省の試算によれば公的保険外サービスのヘルスケア産業で約33兆円規模(2016年は約25兆円)という拡大中の大市場です。
試算において、10%程度が健康志向旅行・ヘルスツーリズムになるという予測がなされている点は注目です。従来の観光(サービス)と地域由来の健康商品(モノ)を融合され、人々が健康への気付き、体験における身体活動を通して地域特性を活用した「新たなヘルスケアサービス」がこれからも新たに生まれていくことでしょう。
まとめ
忙しい日常にふと立ち止まり、ヘルスツーリズムで体の芯から疲れを取り除き、また忙しい日常に帰っていく。本来の自分に還る場所への転地、そして、何度も帰ってくるべき大切な地となるのです。
実際に体験した方のお話をきく機会があれば試してみるきっかけになるかもしれませんね。